
フルーツを食べる人 vol.2 柿
SUMMARY
- ・フルーツを食べる人
- ・vol.2 柿
特集でお送りしている”フルーツを食べる人”。今回は、秋を代表するフルーツとして柿をピックアップします。
柿は、日本の秋の風景描写に、紅葉と並んでよく登場し、都心であっても庭のある民家でよく見かけ、山間部などでは、干し柿作りが最盛期の頃、美しい橙色のカーテンがのびて揺れているのも珍しくない。
晩秋の風物詩としてよく詠まれる趣ある果実で、正岡子規は「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」などと詠い、石田波郷は「柿食ふや 遠くかなしき 母の顔」などと詠った。
柿は東アジア原産のフルーツで、日本には弥生時代以降に、桃や梅、杏などと一緒に大陸から伝来したようだ。平城京以前の遺跡からも柿の種子が発掘されている。江戸時代末には多くの家の庭に柿を植えていたので、日本の秋の原風景になった。
昔から柿の木は、家具や、調度品、小物など日常の様々な用途で使われてきた。
中でも黒い紋様を持つ柿の古木を「黒柿」といい、この黒い文様は樹齢150年以上の黒柿からしか見つからず、「神秘の銘木」といわれている。さらにこの黒柿のうち孔雀の羽の模様に似たものは孔雀杢と呼ばれ、大変希少である。
その神秘的な色や紋様は、昔から貴族や歌人、茶人といった文化人を魅了し、大変重宝されてきた。
柿の果実は、食物繊維やビタミンC、カリウムなどが豊富に含まれており、まさに秋のフルーツの王様といえる。
品種は1,000種類以上あるといわれるが、主に、渋柿と甘柿に分けられる。渋柿は、実が熟してからも甘くならず、渋みが残る。
一方、甘柿は渋柿の突然変異種と考えられており、未熟時は渋いが熟れるにつれ渋みが抜け、甘みが強くなっていく。しかし、驚くべきことに渋柿の方が甘柿よりも糖度が高い。
さて、渋みの正体は「タンニン」で、渋抜きとはこのタンニンを抜くことである。渋抜きすると、本来糖度が高い渋柿のほうが甘くなるが、ビタミンCが減少してしまうことだけは留意したい。表面を白い粉が覆うくらいまで干すと、甘味が凝縮され、1グラム当たりの糖分が約4倍、カロテンが約3倍、ビタミンAは約2倍になる。
中でも、硫黄で燻して蒸した干し柿を「あんぽ柿」といい、福島の特産品となっている。単に干しただけの干し柿は、乾燥して黒く堅くなった後に白い粉をふくが、あんぽ柿は生のままのようなジューシーさと柔らかい感触が特徴で、とろとろの果肉と濃厚な甘味が楽しめる。食欲の秋に自然な甘味のスイーツとして、食してみてはいかがだろうか。
【編集後記/西川雅明】
甘柿は鎌倉時代に日本で突然変異で生まれたそうです。
それまでは渋かった柿が、甘かったのですから、初めて手にした人はさぞかし驚いたことでしょう。
昨今は柿の生産量も消費量も減少傾向にありますが、「柿が赤くなれば、医者が青くなる」と言われるほど栄養価が高いことから、是非秋の食生活に取り入れたい食材です。